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2億3500万ドルのWazirXハッキング:返済を保証しないリカバリートークン

2024年7月18日、サイバー攻撃によりインドの取引所WazirXのウォレットから2億3,000万ドルを超える暗号資産が流出しました。15か月に及ぶシンガポール裁判所での再建手続き(モラトリアム申請、2度の債権者投票、1度の認可却下)を経て、リバランスされたトークン配分と将来の回収請求権であるリカバリートークンの発行を軸とした再建計画が法的効力を獲得しました。

2億3500万ドルのWazirXハッキング:返済を保証しないリカバリートークン

3点クイック要約

  • 発端 / 逆説2024年7月18日、WazirXのウォレットに対するサイバー攻撃により、会社推計で2億3,000万ドル超(Ellipticのオンチェーン分析では約2億3,500万ドル)の暗号資産が流出し、数百万人のインド人ユーザーの出金と取引が即座に停止されました。
  • 決定的瞬間債権者投票で可決されたZettaiの再建案は2025年6月4日にシンガポール高等裁判所で認可を却下されたものの、インド現地法人のZanmai Labsが配布を担当する修正案を策定し、8月の再投票で人数比95.7%、債権額比94.6%の圧倒的賛成を得て再可決されました。
  • 歴史的結末シンガポール高等裁判所は2025年10月13日に修正付きでを認可し、10月15日に法的効力が発生しました。債権額の推計約85.25%に相当するリバランストークンと、将来の回収に連動するリカバリートークンが交付されましたが、満額弁済が保証されたわけではありません。

出来事のタイムライン

2024年7月18日マルチシグウォレットの流出

Liminalのカストディ基盤を利用していたWazirXのが攻撃を受け、2億3,000万ドル超(Elliptic推計約2億3,500万ドル)の資産が流出し、入出金および取引が停止しました。

2024年8月27日シンガポールでのモラトリアム申請

WazirXを運営するZettai Pte Ltdがシンガポール高等裁判所にモラトリアムを申請し、440万人以上の債権者を対象とするに着手しました。

2025年3月19日〜28日債権者による1次可決(賛成93.1%)

Krollのプラットフォームで実施された投票において、14万1,476名の債権者が参加し、人数比93.1%、債権額比94.6%の賛成多数で再建案を承認しました(独立評価人検証済みの会社公表値)。

2025年6月〜8月裁判所の認可却下と2次再投票での再可決

シンガポール裁判所がリカバリートークンの規制適合性を懸念して6月4日に認可を却下した後、インド法人Zanmai Labsを組み込んだ修正案を提出し、8月の再投票で95.7%の賛成を得て再可決されました。

2025年10月13日〜15日再建スキームの認可と法的発効

シンガポール高等裁判所が修正付きで再建案を認可し、10月15日の企業会計規制庁(ACRA)登記を経て効力が発生、プラットフォームは10月24日から段階的に取引を再開しました。

1. 画面表示とペイロードが食い違ったマルチシグ

2024年7月18日、インドの取引所WazirXのウォレットが攻撃を受け、会社評価額で2億3,000万ドル超の暗号資産が流出しました。Ellipticの分析によると、被害額は約2億3,500万ドル(Shiba Inu約9,670万、Ether約5,260万、Matic約1,100万、Pepe約760万ドルなど200種以上)に達し、攻撃者は盗難トークンを分散型サービスで即座にEtherへスワップしました。[1][2]

当該ウォレットは2023年2月からLiminalのカストディ基盤で運用され、WazirX側5名とLiminal側1名の計6名で構成されていました。通常送金にはLedgerを用いるWazirX側3名の承認とLiminalの最終承認が必要で、Gnosis Safe上のホワイトリスト登録先のみに制限されていました。[1]

WazirXの予備報告書は、署名者が画面で確認した内容と実際に署名されたデータとの不一致を原因として指摘しました。[1]

「今回のサイバー攻撃は、Liminalのインターフェースに表示されたデータと、トランザクションの実際の内容との間の不一致に起因するものでした。」[1]
WazirX「マルチシグウォレットに対するサイバー攻撃に関する予備報告書」(2024年7月18日)

2. 440万人の債権者と1つの貸借対照表

WazirXは制御権を奪うためペイロードが差し替えられた疑いがあると報告しましたが、これは会社の推測であり司法判断ではありません。取引所は入出金と取引を停止し不可抗力事象と位置付けました。Ellipticは北朝鮮関連組織の犯行と分析し、2025年1月の米韓共同声明も詳細な業界分析に基づき2億3,500万ドル盗難を北朝鮮(DPRK)の仕業と特定しました。[1][2][3]

2024年8月27日、運営会社であるシンガポール法人Zettai Pte Ltdはシンガポール高等裁判所にモラトリアムを申請し、30日間の訴訟・清算猶予を得てによる再建案策定に着手しました。[4]

裁判所資料は捜査用信託預託金を除く440万人超のユーザーが特定コインの所有者ではなく無担保債権者であることを明確にしました。は債権者投票と認可を経て全員を拘束しますが、Binanceとの未解決の所有権争いや負債が資産を超過した貸借対照表という不確実性がありました。[4][10]

損失は同順位の無担保債権者全員で比例案分(pro-rata)されました。シンガポール会社法第210条(3AB)は投票債権者の過半数かつ債権額75%以上の賛成を要求し、その上で裁判所の認可を得る必要があります。[4][5]

3. 5億ドルの債権、リバランスされた回収枠

Zettaiの公式試算で2024年7月18日13:00 IST時点の承認総債権額は5億4,600万ドル、盗難額は約2億3,500万ドルでした。再建案は残余資産を早期分配用の純流動性資産と長期回収を要する非流動性・盗難資産に分割しました。[7][2][4]

2025年1月のリバランスに基づき、会社は0.5%変動幅内で約85.25%の法定通貨換算回収率をトークンで分配できる見込みと発表しました。これは発効後10営業日以内に初回配分され低流動性銘柄は一部USDTで決済されます。攻撃後の預入分は全額返還されました。会社はこの数値が参考指標であり確定約束ではないと明記しました。[6]

残余請求権は5億4,600万ドルプールに対し比例発行された計10億個のリカバリートークン(Recovery Tokens)に変換されました。このトークンは非流動性・盗難資産の案分持分を表し、即時換金や要求払いの償還には応じません。分配は四半期ごとの買い戻しで行われ、純回収額が1,000万ドル以上の場合のみ一部を充当し未達分は繰り越されます。[7][4]

費用準備金3,000万ドル回収まで会社利益の100%を配分し、その後36か月間または全トークン買戻しまで純利益の50%を共有する枠組みが認可されました。ただしこれも将来の回収総額を保証するものではありません。[4]

4. 可決、却下、そして再投票での圧倒的承認

第1次投票は2025年3月19〜28日にKrollで実施されました。Alvarez & Marsal検証の公表値によると1億9,565万ドル債権を持つ14万1,476名が参加し、人数比93.1%、債権額比94.6%の賛成で可決されました。[5]

しかし2025年6月4日、シンガポール高等裁判所はHC/SUM 940/2025で認可を却下しました。報道によると新規DTSP規制下でのリカバリートークンの法的適合性が懸念されたためでした。[8][11]

MASがFSM Act 2022規定を2025年6月30日施行と発表したことを受け、Zettaiはインド法人Zanmai Labsが分配と運営を担う修正案を作成しました。裁判所は6月4日命令を取り消し再投票を認め、7月30日〜8月6日の投票で2億689万ドル債権の14万9,559名が参加し人数比95.7%、債権額比94.6%賛成で再可決されました。[4][8]

WazirX創業者のNischal Shettyは再投票結果を前向きに評価しました。[8]

「第2次投票でこれほど強力な支持が得られたことは、公正で透明性が高く、ユーザーにとって最も迅速に資金を回収できる選択肢を目指した当社の再建アプローチが正しかったことの証左です。」[8]
Nischal Shetty(WazirX創業者、2025年8月プレスリリース、The Hindu報道)

5. 認可と発効、そして未完の弁済

2025年10月13日、Zettaiはシンガポール高等裁判所がを修正付きで認可したと発表しました。Cointelegraphは15万人超への弁済手続きが開かれたと報じました。認可命令は10月15日にACRAへ登記されは同日発効しました。[9][11][10]

Nischal Shetty創業者は司法認可を迅速な再編の節目と位置付けました。[9]

「この認可は、暗号資産史上最大級のサイバー攻撃を受けたにもかかわらず、世界のクリプト業界で最も迅速な事業再編の1つを達成したという点で、WazirXの歩みにおける極めて重要な節目となります。」[9]
Nischal Shetty(WazirX創業者、2025年10月13日プレスリリース)

プラットフォームはBitGoのカストディ下で再稼働しました。Decryptは10月24日の手数料ゼロ、日次約25%ずつの取引再開、すでに利用可能なINR出金を報じました。当時、リカバリートークンの発行はスキームに基づき準備中でした。[9][12]

初回分配は債権額の推計約85.25%に留まり、インド取引所MudrexのCEOはDecryptに「15%の不足分は依然として懸念」と指摘しました。一部ユーザーは想定より受取額が少ないと訴え、デリー高等裁判所はZettaiにBinance買収合意書の提出を命じました。リカバリートークンは即時換金できず規制要件を満たして初めて取引可能となり、買戻しも不確実な資産回収と将来利益に依存します。盗難資産は帳簿上、未清算の請求権のまま留まっています。[12][6][7][9]

この事件から学ぶ重要教訓(Key Takeaways)

技術 & アーキテクチャ

署名数の多さが安全性を保証するわけではない

WazirXのウォレットはハードウェア鍵、6名の署名者、ホワイトリスト設定、Gnosis Safeを備えながらも、画面表示と実際のペイロードの不一致という一点で突破されました。の防御力は表示とペイロードの完全性に制約されるため、署名を求めるインターフェースの外部での独立した検証が不可欠です。

市場 & 投資インサイト

取引所残高は預金ではなく無担保債権である

取引所が1対1の裏付け資産を維持できなくなった瞬間、ユーザーは無担保債権者の立場に置かれます。による推計約85.25%のトークン配分やリカバリートークンの買い戻しは市場や回収に左右される不確定な回収金であり、取引所残高は現金ではなく相手方リスクとして評価すべきです。

思想 & ガバナンス

裁判所の監督下で進められた損失の社会化

先に出金した者だけが助かる取り付け騒ぎ(バンクラン)を回避するため、シンガポールの再建制度は同順位の全債権者に対して同一割合の損失負担(プロラタ平等)を強制しました。時間はかかり不確実性を全員で分担することになりますが、それこそが法的債務整理の設計意図そのものです。

ストーリー・ユニバース

この人物・事件と繋がる関連ストーリー

歴史のバタフライ効果で結びついた、もう一つのドラマを探求する。

出典・参考文献

  1. [1]出典 1: 予備報告書:WazirXマルチシグウォレットに対するサイバー攻撃の分析WazirX Blog · 2024-07-18確認 2026-08-23
  2. [2]出典 2: 北朝鮮関連の侵入によりWazirXから2億3,500万ドルが流出Elliptic Research · 2024-07-18確認 2026-08-23
  3. [3]出典 3: 北朝鮮による暗号資産窃取と官民連携に関する共同声明日本財務省 · 2025-01-14確認 2026-08-23
  4. [4]出典 4: 告知:シンガポール裁判所へのWazirXモラトリアム申請(FAQ更新含む)WazirX Blog · 2024-08-28確認 2026-08-23
  5. [5]出典 5: Zettai再建案の投票結果:人数比93.1%、債権額比94.6%で可決WazirX Blog · 2025-04-07確認 2026-08-23
  6. [6]出典 6: 資産リバランス完了告知 — 初回分配推計値の確認案内WazirX Blog · 2025-02-10確認 2026-08-23
  7. [7]出典 7: リカバリートークン(Recovery Tokens)の仕組み解説WazirX Blog · 2026-01-09確認 2026-08-23
  8. [8]出典 8: シンガポール裁判所の1次却下後、WazirXユーザーの再投票により再建案が再可決The Hindu · 2025-08-19確認 2026-08-23
  9. [9]出典 9: シンガポール裁判所、Zettaiの債権者承認済み再建スキームを正式認可WazirX Blog (Press Release) · 2025-10-13確認 2026-08-23
  10. [10]出典 10: 債務整理スキーム(Scheme of Arrangement)が正式に法的発効WazirX Blog · 2025-10-16確認 2026-08-23
  11. [11]出典 11: シンガポール裁判所、2億3,400万ドル流出事故後のWazirX再建案を最終承認Cointelegraph · 2025-10-13確認 2026-08-23
  12. [12]出典 12: WazirX、2億3,400万ドルハッキングから1年以上を経て取引および出金を再開Decrypt · 2025-10-23確認 2026-08-23