動くイーサリアムのエンジンを交換する:The Mergeが変えたルール
2022年9月15日、イーサリアムは従来の実行層をビーコンチェーンのプルーフ・オブ・ステーク合意と結合した。The Mergeは取引履歴を引き継ぎながらメインネットの採掘を終え、バリデータの責任とエネルギー消費を変えた。
要点
- The Mergeは2022年9月15日、既存の取引履歴を保ったままイーサリアムのメインネットをPoSへ移行した。
- 2020年12月1日から稼働していたビーコンチェーンへの引き継ぎには累積難易度を用い、その後PoSによる確定を経た。
- Ethereum.orgはイーサリアムのエネルギー消費が約99.95%減ったと推計する。ステーブルコイン発行者は別途、支援するチェーンを選んだ。
出来事のタイムライン
ブテリンが採用決定ではなく罰則付きPoSの構想を提案。
32 ETHの預託最低16,384件を開始条件とする別の合意チェーンが誕生。
CircleとTetherがマージ後のPoSチェーン支援を発表。
メインネットがビーコンチェーンのPoS合意を採用。
Ethereum.orgは消費約99.95%減を推計。ETHの純供給は発行と焼却に依存する。
古いエンジンの隣で育った新しいエンジン
2014年1月、ヴィタリック・ブテリンは、PoSで矛盾する行動に罰則を設ける初期案「Slasher」を発表した。冒頭は慎重だった。イーサリアムが採掘方式として採用するとの発表ではなく、選択肢の検討だと断っている。研究上の着想から、稼働中のネットワークを置き換える仕組みに至るまでには、未解決の設計問題が残っていた。[5]
その一つは、矛盾する投票にどう費用を伴わせるかだった。ブテリンの2017年のPoS FAQは、追加の計算が少なく済む場合に複数の履歴を支持する誘因を論じた。後のビーコンチェーンは、Casper FFGによる確定とLMD-GHOSTによる分岐選択を組み合わせた。通常の活動不良に対する罰則と、特定の矛盾したメッセージへのスラッシングを区別し、同時期の違反が多いほど損失が大きくなり得る設計にした。[3][11]
ビーコンチェーンは2020年12月1日に始動した。事前発表の開始条件は32 ETHの預託が最低16,384件、合計最低524,288 ETHだった。これはバリデータの預託件数であり、個人の人数や最終的な預託総額ではない。当初は自身のバリデータと残高について合意し、メインネットはPoWでアプリを処理していた。新しい合意系が取引を引き受ける前に、独立して運用される段階だった。[1][6]
預託する側には、この分離に具体的な意味があった。ETHは入れられても、初期の仕組みに引き出し機能はなかった。The Merge自体も引き出しを解禁しなかった。バリデータは出金経路の完成前に新しい責任を担ったのである。予定する機能を一度に盛り込むより、合意の移行に範囲を絞った更新だった。[11][4]
チェーンを引き継ぐための条件
切り替えには、各クライアントが同じ履歴に適用できる条件が必要だった。EIP-3675は、この移行で固定のブロック番号を使う危険性を説明している。攻撃者が少ない採掘能力でも指定の高さに達する別の分岐を作り、その上に最初のPoSブロックを載せようとする可能性がある。累積作業難易度は、引き継ぎの対象になれる履歴を制限する条件だった。[2]
メインネットの最終累積難易度(TTD)は58750000000000000000000だった。終端のPoWブロックはこの値以上に達し、その親は未満でなければならない。新ルールは終端より先のPoWブロックを受け入れず、PoSの分岐選択へ移る。確定前に終端ブロックが競合する場合の扱いも定めた。全コンピュータが同じ一瞬に反応するという約束ではなく、検証できる条件である。[2]
2022年8月24日のメインネット告知は、合意層のBellatrixと、難易度の閾値で実行層を移すParisの二段階を説明した。運用者は両方のクライアントを更新し、Engine APIで接続する必要があった。公開テストネットの移行完了だけでなく、各実装のリリースと運用上の注意点も掲載された。異なる実装を連携させる作業には、既存のコントラクトと利用者の継続性がかかっていた。[4]
このEIPはプルーフ・オブ・ワーク(PoW)を廃止し、ビーコンチェーンが駆動する新しいプルーフ・オブ・ステーク(PoS)合意メカニズムに置き換える。[2]— EIP-3675
コピーされた台帳と、その上の資産
そのクライアントの上で動く金融サービスには、別の問いがあった。分岐したチェーンで資産は何を意味するのか。2022年8月9日、Circleはマージ後のイーサリアムではPoSチェーンだけを支援する方針を示した。USDCで支援する版を一つに定めたのである。残高をコピーしても発行者の支援まで自動的に付いてくるわけではない。ただし、他のソフトウェアのブロック生成を止める命令でもなかった。[7]
Tetherも同日、独自の方針を発表した。マージ後はPoSチェーンのテザートークンのみを支援し、PoWチェーンの支援は終了する計画だった。同社は利用者やDeFiサービスの混乱、中断を避けるためだと説明した。公開台帳に残高が記録されていても、それを利用するアプリにとっては発行者の支援方針が資産の実質的な意味を左右した。[8]
それでもEthereumPoWは別のフォークとして存在した。Circleは2023年11月のUSDCコントラクト更新の説明で、そのチェーンの作成と運用に触れ、どのイーサリアム資産の償還を支援するかを再確認した。ネットワークが自身の履歴を伸ばしても、コピー元の全サービスや金融関係まで継承するわけではない。ソフトウェアの存続と、発行者が支える資産の継続性は別の問題だった。[10]
ここでエンジン交換の比喩は経済と交わる。合意ソフトウェアは参加者が受け入れるブロックを決め、発行者は自身の債務のどの版を支えるかを決める。The Mergeでは両者の選択が同時期に重なった。コンピュータとアプリの勝ち負けよりも、台帳のルールとそれを利用する機関が異なる調整に依存することが見えてくる。[7][8][10]
採掘の終了が変えたもの
イーサリアムは2022年9月15日にThe Mergeを完了した。ブロック生成と確定は別の段階だった。事前告知は正常なネットワーク条件なら、閾値を越えた後の最初のブロックは約2エポック、約13分後に確定すると説明していた。成果は合意を置き換えて既存チェーンを引き継いだことにある。利用者の履歴と残高は維持され、通常のETHを新しいコインに交換する必要もなかった。[1][4]
エネルギー面の変化も大きかった。Ethereum.orgは、競争的なPoW採掘が不要となり、イーサリアムのエネルギー消費が約99.95%減ったと推計する。この数値が指すのは当該ネットワークの消費である。炭素排出には発電方法も影響し、世界全体に占める比率には別の測定根拠が要る。それらを加えなくても、従来の採掘競争を不要にした技術的成果は明確だ。[1]
発行の仕組みも変わった。Ethereum.orgの過去比較は、明示したステーキングの仮定の下で新規発行が約88.7%減ると示す。よく約90%と丸められる数値だ。採掘による発行は終わったが、バリデータへの発行は続いた。マージ前に導入された基本手数料の焼却も別に作用する。供給の増減は発行と焼却の差に依存し、移行の成功が恒久的な供給減少や特定の価格を保証したわけではない。[9]
残された課題もあった。The Mergeはガス代を下げるための処理容量拡張ではなく、ステーキングの引き出しは後の更新で可能になった。その成果は、動いているチェーンの履歴を継承しつつ安全性の仕組みを変えた点にある。新しいモデルも参加、正常なソフトウェア、明示された安全性の仮定に依存する。エンジン交換は公共ネットワークを維持する仕事の重要な節目だった。[1][11]
この事件から学ぶ重要教訓(Key Takeaways)
役割の分離が引き継ぎを可能にする
実行・合意クライアントが既存チェーンの履歴を維持しながら移行を調整した。
トークンのコピーは支援のコピーではない
CircleとTetherの方針は、資産支援とフォークの稼働能力を区別すべき理由を示す。
安全性は継続して支えるもの
PoSは合意に使う資源と誘因を変えるが、運用条件や安全性の仮定をなくすものではない。
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出典・参考文献
- [1]出典 1: The Merge:現在の歴史・技術ガイドethereum.org確認 2026-09-06
- [2]出典 2: EIP-3675:合意移行の仕様Ethereum Improvement Proposals · 2021-07-22確認 2026-09-06
- [3]出典 3: プルーフ・オブ・ステークFAQ(2017年)Vitalik Buterin · 2017-12-31確認 2026-09-06
- [4]出典 4: メインネットのマージ告知と運用者向け案内Ethereum Foundation · 2022-08-24確認 2026-09-06
- [5]出典 5: Slasher:罰則付きPoSの初期提案Ethereum Foundation · 2014-01-15確認 2026-09-06
- [6]出典 6: 開始に必要な預託条件:eth2更新情報第19号Ethereum Foundation · 2020-11-04確認 2026-09-06
- [7]出典 7: USDCと予定されるイーサリアムのマージCircle · 2022-08-09確認 2026-09-06
- [8]出典 8: TetherによるイーサリアムPoS移行への支援方針Tether · 2022-08-09確認 2026-09-06
- [9]出典 9: The MergeがETHの発行と焼却に与えた影響ethereum.org確認 2026-09-06
- [10]出典 10: USDC v2.2:フォークへの対応と償還支援Circle · 2023-11-09確認 2026-09-06
- [11]出典 11: EIP-2982:ビーコンチェーンの初期稼働と罰則Ethereum Improvement Proposals · 2020-09-15確認 2026-09-06


