喪失と大逆転約 6分

0ドルの強奪:MakerDAOのBOTはいかにして暗黒の木曜日に832万ドルのイーサリアムをタダで手に入れたか

2020年3月12日、コロナショックによりイーサリアムが50%以上暴落した際、極度の高騰によってMakerDAOの清算ネットワークが麻痺した。制限を解除していたごく少数のBOTが無人のオークション会場に0 DAIで入札し、832万ドル(約10億円)相当のETH担保をタダ同然で丸ごと奪い去った。

0ドルの強奪:MakerDAOのBOTはいかにして暗黒の木曜日に832万ドルのイーサリアムをタダで手に入れたか

3点クイック要約

  • 発端 / 逆説2020年3月12日のパンデミック恐慌でETHが数時間で50%暴落し、が1,000 Gweiを突破してイーサリアムのメモリプールが完全に麻痺した。
  • 決定的瞬間標準設定の上限がかかっていた大半の清算BOTが排除され、制限を外していた少数のBOTが50 ETHの担保ロットを0 DAIで次々と落札した。
  • 歴史的結末このゼロ入札によりMakerDAOには400万ドルの不良債権が発生し、プロトコルは史上初めてガバナンストークンMKRを新規発行して債務を埋める株式オークションを断行した。

出来事のタイムライン

2020年3月12日 12:00 UTC世界的な追証売りとETH大暴落

世界市場のパニックに連動してイーサリアムが195ドルから88ドルへとわずか数時間で50%以上暴落した。

2020年3月12日 14:00 UTCメモリプール目詰まりとBOT停止

が1,000 Gweiを超え、大半の清算BOTが取引を通せずオークションへの参加が遮断された。

2020年3月12日 16:30 UTC0 DAI落札の大量発生

競争相手のいなくなった会場で少数のBOTが0 DAIを入札し、832万ドル相当のETHを元手ゼロで落札した。

2020年3月13日DAIペグが1.12ドルへ異常高騰

借金を返済しようとする債務者と利益確定を急ぐBOTが殺到し、DAIの価格が1ドルを大きく超えて歪んだ。

2020年3月19日歴史的なMKRフロップオークション

400万ドルの損失を穴埋めするため、MakerDAOが新規MKRトークンを発行してDAIを買い戻す債務競売を実施した。

世界規模のマージンコールとイーサリアムの50%自由落下

2020年3月12日木曜日、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は資本市場に壊滅的な混乱を引き起こした。株式市場ではサーキットブレーカーが発動し、原油は急落、信用市場は凍結した。黎明期の分散型金融(DeFi)にとっても、この衝撃は存亡の危機となった。わずか36時間の間にイーサリアムの価格は195ドルから88ドルへと55%も暴落し、巨額のレバレッジポジションを一掃した。[1][4]

この金融危機の中心に位置していたのが、DeFi信用創造の屋台骨であったMakerDAOだった。ユーザーはイーサリアムを担保としてに預け入れ、米ドル連動のステーブルコインDAIを発行していた。システムの健全性を保つため150%の最低担保比率が義務付けられており、資産価値がこれを下回ると自動的に公開オークションで担保が売却される仕組みだった。[1][3]

イーサリアムが底知れぬ急落を演じたことで、数千もの担保金庫(Vault)が一斉に清算ラインを割り込んだ。本来であれば秩序ある債務回収が行われるはずだったが、現実は悲惨なパニックへと直進した。担保を補充しようとするユーザーと裁定取引BOTの注文が殺到し、イーサリアムのメモリプールを窒息させたのである。[1][3]

こうした状況が重なり、Keeperはスリッページを恐れ、また全清算を吸収する流動性が不足したため活動を停止した。[1]
MakerDAO Black Thursday response thread

メモリプールの目詰まりと清算BOTのブラックアウト

パニック注文が殺到したことで、イーサリアムネットワークは完全な麻痺状態に陥った。通常10〜20 Gwei程度だったは400、800 Gweiを突破し、瞬く間に1,000 Gweiを超えた。マイナーは最も高い手数料を提示したトランザクションを優先したため、一般ユーザーや多くのBOTの取引はメモリプールに何時間も放置された。[1][3]

このネットワーク渋滞は、MakerDAOの外部キーパー(清算BOT)ネットワークが抱えていた致命的な弱点を白日の下に晒した。キーパーは割安で担保を買い取って利益を得る代わりにシステムを支える自律プログラムだったが、財団が配布していた標準コードには危険な設定が存在した。ハードコードされた上限設定である。[1][3]

多くの運用者は300〜500 Gwei以上の取引を拒否するよう設定していたため、相場が天井を破ると同時にBOTは次々と動作を停止した。さらにInfuraなどの主要ノードプロバイダも過負荷で遅延を起こし、大半の参加者がオークション会場にアクセスすらできない盲目状態に追い込まれた。[1][4]

その結果、一部のVaultはシステムに0 DAIしか戻らないまま清算され、システムに純損失が生じた。[1]
MakerDAO Black Thursday response thread

0ドルの大横領:無人のオークション会場とETH総取り

参加者の99%が消え去ったことで、MakerDAOの清算オークションは静まり返った。プロトコルは差し押さえた50 ETHごとの担保ロットを競売にかけ、10分間新たな入札がなければ最後の入札者が落札する設計になっていた。開始価格は0 DAIだった。[1][3]

自前ノードを立ち上げ、制限を解除していたごくわずかなエリートBOTがこの機会を見逃さなかった。彼らは会場にライバルが誰一人到達できていないことを瞬時に見抜いた。そして迷わず最小入札単位である「0 DAI」を提示し、数百ドルの優先を投じて取引をブロックにねじ込んだ。[1][4]

10分のカウントダウンの間、他の誰の入札も渋滞を突破してブロックチェーンに届かなかった。結果としてオークションは0 DAIで成立した。12時間の間にこれらのBOTは計832万ドル(約10億円)相当のETHを、元手0円で無制限に吸い上げた。担保を預けていたユーザーは借金が1円も減らないまま、すべての財産を失った。[1][4]

Makerのガバナンス議論には約500万DAIのシステム債務が記録され、コミュニティはオークション設定の調整と債務オークションによるプロトコルの資本再構成に動いた。競争入札の停止が損失へ直結した教訓も残った。[1]

400万ドルの債務ホールと歴史的なフロップオークション

嵐が去った後、MakerDAOの財務諸表には巨大な穴が空いていた。通常であれば担保売却で得たDAIを焼却して負債を清算するはずだったが、832万ドルの担保が0 DAIで消えたため未回収の債務だけが残された。プロトコルは400万ドル(約5億円)という途方もない無担保不良債権を抱え込んだ。[1][2]

追い討ちをかけるように、DAIの価格が1.12ドルまで暴騰した。担保を取り戻そうとする債務者や利益を確定したいBOTが市場のDAIを買い漁ったため深刻な供給不足に陥ったのである。DeFiの基軸通貨が死のスパイラルに突入するのではないかという恐怖が広がった。[1][4]

MakerDAOは最終防衛装置である「フロップオークション(債務競売)」を起動した。システムが許容限度を超える不良債権を抱えた際、コントラクトがガバナンストークンMKRを新規発行して市場で競売にかけ、調達したDAIで負債を償却する仕組みである。本番環境で一度も試されたことのない未知のコードだった。[1][3]

3月19日から28日にかけて行われた106回の競売により、MakerDAOは530万DAIを調達して不良債権を全額清算した。ベンチャーキャピタルやコミュニティが株式の希薄化を受け入れて資本を注入し、プロトコルは100%の健全性を取り戻した。この苦難を契機にUSDCなどの安定担保が導入され、DeFiが極限のストレステストを克服した伝説として語り継がれている。[1][2][4]

この事件から学ぶ重要教訓(Key Takeaways)

技術 & アーキテクチャ

メモリプールの混雑はオンチェーンの期限付き競売を無力化する

短い入札タイマーは高騰時に機能不全に陥り、高額手数料を支払える少数のBOTが資産を0円で独占する脆弱性を生む。

市場 & 投資インサイト

単一の変動資産に依存する担保モデルは流動性危機に脆弱である

全面暴落時に単一銘柄へ依存すると価格下落とガス高騰が連鎖するため、USDCのような安定した無相関担保の分散導入が不可欠となる。

思想 & ガバナンス

自己資本の希薄化で債務を清算するガバナンスが不滅の存続を支える

MakerDAOは危機に際して自社株式(MKR)を発行して損失を吸収する決定論的リカバリーを証明し、DeFiの真の回復力を確立した。

ストーリー・ユニバース

この人物・事件と繋がる関連ストーリー

歴史のバタフライ効果で結びついた、もう一つのドラマを探求する。

出典・参考文献

  1. [1]出典 1: MakerDAO Official Post-Mortem: 12-13 March 2020 Market Collapse and Liquidation AnalysisMakerDAO Official Governance Forum · 2020-03-14確認 2026-09-03
  2. [2]出典 2: Gauntlet Network: Black Thursday MakerDAO Collateral Auction RetrospectiveGauntlet Network Research · 2020-03-20確認 2026-09-03
  3. [3]出典 3: Japan FSA Research Report: MakerDAO Zero-Bid Incident and Network CongestionFinancial Services Agency, Japan · 2020-04-02確認 2026-09-03
  4. [4]出典 4: Dragonfly Capital: What Really Happened on DeFi's Black ThursdayDragonfly Research · 2020-03-16確認 2026-09-03