40億ドルの調達からVaultaへの再誕 — EOSの苦闘とコミュニティによる歴史的奪還
史上最大規模の40億ドルICOを実施しながら、開発企業Block.oneの約束不履行により衰退したEOS。コミュニティがCEOを解任し、インフレ停止とハードフォークを断行して『Vaulta』へと完全再構築を遂げた執念の記録。

3点クイック要約
- 発端 / 逆説2017〜2018年、Block.oneが1年間にわたるICOで史上最高額となる40億ドル(約4,400億円)以上の資金を調達。
- 決定的瞬間開発企業が巨額の資金をビットコイン購入や私腹を肥やすために流用し、EOSエコシステムの開発を放棄したため価格とシェアが暴落。
- 歴史的結末イヴ・ラ・ローズ率いるコミュニティが立ち上がり、Block.oneへのトークン権利確定を凍結し、コードベースを『Antelope』へフォークして自立。2025年には『Vaulta』として完全リブランドを果たした。
出来事のタイムライン
ダニエル・ラリマーとブレンダン・ブルマー率いるBlock.oneが1年間のトークンセールで41億ドルを調達。
約束された10億ドルのエコシステム投資が実行されず、EOSはトップ10から転落。
EOSネットワーク財団(ENF)が主導し、Block.oneに割り当てられていた6,700万EOSの権利確定をオンチェーン投票で停止。
Block.oneのIP(知的財産権)から完全に決別し、コミュニティ主導のC++コードベース『Antelope』へ移行。
発行上限の固定とWeb3バンキング・インフラ『Vaulta』へのリブランディングを完了。
1. 40億ドルの熱狂:史上最大のICO
2017年6月から2018年6月にかけての350日間、暗号資産の歴史上最も巨額の資金調達が実行された。天才開発者ダニエル・ラリマー(Dan Larimer)とブレンダン・ブルマー(Brendan Blumer)が率いる企業『Block.one』が実施した、EOSのICO(イニシャル・コイン・オファリング)である。
毎日休むことなくイーサリアムが集まり続け、最終的な調達額は「41億ドル(約4,400億円)」という天文学的な規模に達した。彼らは『イーサリアムを過去のものにする秒間100万件処理の次世代OS』を約束し、世界中の投資家がその夢に酔いしれた。
2. 約束の反故とBlock.oneの裏切り
しかし、メインネットがローンチされた直後から、暗雲が立ち込めた。Block.oneは調達した数十億ドルの資金をEOSエコシステムの開発や助成金に投じる約束を反故にし、その巨額の資金で14万枚以上のビットコインを購入して自社の資産運用に回したのだ。
ダニエル・ラリマーをはじめとする主要開発者が次々と離脱し、EOSのコード更新は停止。かつて時価総額4位を誇ったEOSは、技術的停滞と不信感からランキングを急降下していった。
「Block.oneは我々のコミュニティを食い物にした。彼らは40億ドルを集めながら、EOSのために実質的に何一つ作らなかった。EOSは彼らのビットコイン積立マシンのための道具にされたんだ」— イヴ・ラ・ローズ(Yves La Rose)
3. 2021年のクーデター:親会社への資金凍結
これ以上黙って見過ごすことはできないと立ち上がったのが、元ブロックプロデューサーのイヴ・ラ・ローズ率いる『EOSネットワーク財団(ENF)』だった。
2021年12月8日、EOSの歴史を永遠に変える歴史的クーデターが決行された。ネットワークの合意形成を担う21のブロックプロデューサー(BP)たちが団結し、Block.oneに対して今後10年間で段階的に支払われる予定だった「6,700万EOS(当時の価値で約2億5,000万ドル)」の権利確定(ベスティング)契約を、オンチェーン投票によって強制停止・凍結したのだ。
Web3の歴史上、コミュニティが自らを作った創設企業をオンチェーン投票で実質的に『解雇』した最初の瞬間だった。
4. Antelopeへのフォークと知的財産の奪還
資金を断ち切ったコミュニティは、次に技術的自立へと舵を切った。Block.oneが著作権を握っていたオリジナルのEOSIOコードベースを放棄し、TelosやUX Networkといった他の兄弟チェーンと連合を組んで、新しいコミュニティ主導のコードベース『Antelope』を立ち上げた。
2022年9月21日、EOSネットワークはハードフォークを完了。Block.oneとの関係を技術的にも完全に断ち切り、真の分散型ネットワークとしての再出発を果たした。
5. Vaultaへの昇華:死の淵からの完全復活
自立を果たしたコミュニティは、経済モデルの大改革に着手した。かつてのインフレ型トークノミクスを廃止し、発行上限を21億枚に固定。2025年、ネットワークは過去の負の遺産を完全に払拭するため、Web3分散型バンキングインフラ『Vaulta』へとリブランディングを発表した。
EOSからVaultaへの過酷な旅路は、暗号資産業界におけるガバナンスと分散化の究極のレッスンである。どれほど強大な創業者や企業であっても、コミュニティの意志と分散型合意形成を永久に支配することはできない。
裏切られた巨額の富を自らの手で取り戻し、灰の中から蘇ったこの物語は、真のWeb3の力は企業のバランスシートではなく、団結した人々の意志の中にこそ存在することを証明している。
この事件から学ぶ重要教訓(Key Takeaways)
ICOモデルの構造的欠陥と創設企業のモラルハザード
巨額の調達資金がプロトコルではなく民間企業(Block.one)のバランスシートに直接入る設計は、創業者がチェーンの成功にコミットしなくなる致命的なインセンティブの歪みを生みました。
オンチェーン・ガバナンスによる開発企業への制裁
ブロックプロデューサー(BP)とコミュニティが結託し、背信行為を行った親会社への報酬送金をスマートコントラクトで停止した事件は、Web3における究極の株主総会クーデターでした。
コミュニティ主導のハードフォークによる再生
破綻した遺産からでも、確固たるリーダーシップと分散型ガバナンスがあれば、コードをフォークして自立した経済圏を再建できることが実証されました。
出典・参考文献
- 出典 1: CoinDesk: EOS Community Halts Payments to Block.one in Rare RevoltCoinDesk · 2021-12-08
- 出典 2: Bloomberg: The $4 Billion Crypto Scam That Community ReclaimedBloomberg · 2022-09-21