VC資金ゼロから毎秒20万注文へ、Jeff YanとHyperliquidの選択
Jeff Yanの自己資金チームは、FTX破綻前の2022年9月にオーダーブック型無期限先物DEXの開発を始めた。Arbitrumでの公開テストから独自L1へ移り、後に毎秒20万件の注文処理能力を掲げるまでの歩みこそ、Hyperliquidの成長を物語る。

要点
- Jeff Yanのチームは2022年9月にオーダーブック型無期限先物DEXの開発を開始した。FTX破綻は開発着手後に起き、セルフカストディ取引へ全面的に取り組む判断を後押しした。
- 第一原理から設計された独自のL1とHotStuffに着想を得たHyperBFTにより、完全なオンチェーン・オーダーブックを実現し、TPSではなく毎秒約20万件の注文処理能力を記録した。
- 2024年11月のHYPEジェネシスでは総供給量の31%がユーザーへ配布され、非公開投資家、中央集権型取引所、マーケットメイカーへの事前割り当ては一切行われなかった。
出来事のタイムライン
Yanは数学とコンピュータサイエンスを専攻してハーバード大学を卒業後、Hudson River Tradingに入社してクオンツトレーダーとしてのキャリアを開始する。
2022年9月のオーダーブック開発開始に続き、11月にArbitrum Goerliで先物の模擬取引大会を公開する。FTXも大会と同じ月に破綻した。
一般向けペーパートレーディング大会を経て、招待制のクローズドアルファ・メインネットテストの開始を発表する。
第1期ポイントプログラム終了時点で、DeSpreadの調査において取引高、未決済建玉、DAUで無期限先物DEX首位と位置づけられる。
総供給量10億トークンのうち31%に相当する3億1,000万HYPEがユーザーに配布される。
1. クオンツのチームがオーダーブックを選ぶまで
Jeff Yanは数学とコンピュータサイエンスを学び、2017年にハーバード大学を卒業した後、Hudson River Tradingでクオンツトレーダーとして働いた。本人によれば、そこで市場の仕組みを考え、定量的な思考を取引に応用する経験を積んだ。2018年ごろにEthereumを知り、HRTを離れてからは暗号資産に取り組み続けた。Hyperliquidの土台をつくったのは一つの劇的な事件ではなく、こうして蓄積した市場経験と技術への関心だった。[3]
2022年半ば、Yanの少人数チームはすでに暗号資産を取引し、中央集権型と分散型の取引所を比較していた。Hyperliquidが2023年7月に公開した回顧では、オーダーブック型無期限先物DEXの開発開始を2022年9月、Arbitrum Goerliでのペーパートレーディング大会を11月、独自L1テストネットの稼働を12月としている。FTX破綻は開発着手後の出来事である。Yanは後に、この破綻がセルフカストディの必要性と当時の分散型取引の速度・使い勝手の不足を浮き彫りにし、開発へ全面的に取り組む契機になったと説明した。[3][7]
ええ、完全に自己資金だけで賄ってきました。[3]— Jeff Yan(Wu Blockchainインタビュー)
2. HyperBFTが実際に構築した技術
Hyperliquidの現在の構造は、一度に完成したわけではない。2023年4月の公式技術記事は、初期L1をRustで実装した調整版Tendermintとして説明し、処理能力を毎秒2万オペレーションとしていた。現在の文書はHyperBFTをHotStuffとその後継研究に着想を得た独自の合意アルゴリズムとし、状態を金融機能用のHyperCoreと汎用スマートコントラクト用のHyperEVMに分けている。二つの時点の一次資料を並べると、完成品が突然現れたのではなく、チェーンが段階的に変化したことが分かる。[1][2][8]
HyperCoreは完全なオンチェーンの無期限先物および現物オーダーブックを備える。公式説明によれば、すべての注文、キャンセル、約定、清算がHyperBFTの1ブロック確定性のもとで透明に処理される。本質的な成果は曖昧な分散性の主張ではなく、マッチングと証拠金管理に対する一貫したトランザクション順序の実現にある。なお、これは取引手数料の完全無料化やあらゆるMEVの排除、運用上のトレードオフが存在しないことを意味しない。[1][2]
現在のメインネット文書は処理能力を毎秒約20万件の注文とし、実行処理をボトルネックに挙げている。これは2023年4月の毎秒2万オペレーションより後の指標で、測定単位も異なる。いずれも一般的なTPSではない。中央値0.2秒、99パーセンタイル0.9秒という現在の遅延値も、地理的に近接配置されたクライアントを前提とする。時点、単位、測定条件をそろえて初めて、速度の見出しを比較可能な性能主張として読める。[2][8]
3. 誇張なき成長データの検証
Hyperliquidの躍進は顕著であったが、2024年の実績値を文脈から切り離して絶対化してはならない。DeSpreadの調査はプロジェクトの成長を第1期ポイントプログラムと関連付けており、2024年5月の同プログラム終了時点で取引高、未決済建玉(OI)、DAUにおいて無期限先物DEX首位と位置づけた。これは特定時点の調査記録に基づくスナップショットであり、恒久的な市場法則やその後の全期間を保証するものではない。[4]
その後の節目にも同様の検証が求められる。2024年11月のエコシステム拡張およびHYPE誕生の前後に、DeSpreadは累計取引高1,500億ドル、未決済建玉43億ドルという最高値を記録した。取引高が約定総額の積算であるのに対し、未決済建玉はある一時点における未決済残高を示しており両者は異なる。これらの数値は、2024年前半から日常的に1日40億ドルを処理していたという誇張を裏付けるものではない。[4]
CoinGeckoの年間レポートはより明確な比較対象を示す。追跡対象となった上位10の無期限先物DEXの中で、Hyperliquidは2024年第4四半期に55%超の取引高シェアを占め、12月には66%に達した。また年末の未決済建玉シェアは66.2%であった。この記録は当時の優位性を証明する一方、比較対象が全取引所ではなく主要無期限先物DEXである点、そして数値が2024年末時点のものであるという限定を明確にしている。[6]
4. HYPEジェネシス:大規模だが「100%コミュニティ」ではない現実
2024年11月29日、Hyperliquidは上限10億トークンのうち31%にあたる3億1,000万HYPEをユーザーに配布した。Decryptの報道によれば、さらに38.88%が将来のトークン配布およびコミュニティ報酬として確保されている。CoinGeckoも31%の配布比率と11月29日の日付を記録している。極めて画期的な設計だが、総供給量の100%がコミュニティに渡ったとする言説は準備金枠を無視しており、客観的な成果を誤った絶対論に変えてしまう。[5][6]
基本的にはノーです。利益分配の取り決めや出資といったプライベートな契約は一切存在しませんでした。[3]— Jeff Yan(Wu Blockchainインタビューでのマーケットメイカーに関する質問への回答)
トークン配布報告では、VC等の非公開投資家、中央集権型取引所、マーケットメイカーへのHYPEの事前割り当てが存在しないことが明記された。この限定的な表現は、将来の準備金を隠すことなく割当対象外を特定している点で宣伝文句よりも説得力を持つ。Yanは流動性プールのHLPを私的デスクではなくプロトコル所有のボールトと説明した。初期の売圧リスクは抑制されたが、ガバナンスや運用の集中リスクが完全に消えたわけではない。[3][5]
5. この実験が証明したもの、そして証明していないもの
Hyperliquidは、マッチング・証拠金・合意形成を統合設計すれば、高度なデリバティブ需要にオンチェーンで対抗できることを示した。HyperCoreでオフチェーン台帳依存を排し、HyperEVMで汎用アプリへの拡張性を開拓している。しかしこの構造は、処理能力だけでなくバリデータ参加やコードの正確性、市場の健全性や負荷時の挙動から評価されるべきである。特化型の性能は強みだが、分散性やリスク評価の免除にはならない。[1][2]
資金調達モデルが示す教訓もまた限定的である。Yanの主張は明快であり、度重なる資金調達はプロダクトの進捗を示す適切な代替指標ではなく、真の進捗とは初期投資家ではなくユーザーが価値を得て成長を享受することにあるというものであった。完全な自己資金という選択により、プロトコルの主権はチームとユーザーに保たれた。この教訓は全チームが外部資本を拒否すべきという話ではなく、調達とは主体的に設計可能な選択肢であるという点にある。[3]
真の進捗とは、ユーザーが自分たちの構築したものから実際に価値を得て、その成長の果実を享受できることであり、初期段階で単に資金を投じた投資家集団が利益を得ることではありません。[3]— Jeff Yan(Wu Blockchainインタビュー)
この事件から学ぶ重要教訓(Key Takeaways)
適切な測定単位で性能を評価する
Hyperliquidが公式に提示している指標は一般的なTPSではなく毎秒の注文処理件数と限定条件下の遅延である。アーキテクチャの主張は測定単位と検証条件が精査されて初めて工学的な意味を持つ。
市場シェアを時間軸の中で捉える
2024年における首位獲得は確かな事実だが、取引高や未決済建玉のシェアは特定の期間および定義された比較群に基づく記録であり、恒久的な市場支配を意味するものではない。
資本構成そのものがプロダクトの設計である
外部VCに頼らない自己資金調達とユーザー主導の配布は独自のインセンティブを生み出した。一方、将来のトークン配布とコミュニティ報酬のために確保された38.88%の枠の存在は、コミュニティ保有が絶対的(100%)ではなく実質的な配分であったことを示している。
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出典・参考文献
- [1]出典 1: Hyperliquidの紹介Hyperliquid Docs確認 2026-08-22
- [2]出典 2: HyperCoreの概要Hyperliquid Docs確認 2026-08-22
- [3]出典 3: Hyperliquid創業者Jeff Yanへの独占インタビューWu Blockchain · 2025-08-17確認 2026-08-22
- [4]出典 4: ゼロからの成長:HyperliquidDeSpread Research · 2025-06-13確認 2026-08-22
- [5]出典 5: Hyperliquidが16億ドル相当のHYPEをエアドロップDecrypt確認 2026-08-22
- [6]出典 6: 2024年暗号資産業界年次報告書CoinGecko · 2025-01-15確認 2026-08-22
- [7]出典 7: Hyperliquid第2四半期アップデート:開発年表Hyperliquid · 2023-07-05確認 2026-09-05
- [8]出典 8: 初期Hyperliquid L1の構造と性能Hyperliquid · 2023-04-18確認 2026-09-05


